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「あの、……母の、どこが好きなんですか?」
私の唐突な質問に、目の前の“父”が、ビールを噴出した。
こんな光景、前にも違う誰かがしていたな、なんて思いながら、私は笑う。
「ごめんごめん、美沢ちゃんがそんな事言うから」
“父”は、少し焦った表情をしながら、布巾でテーブルを拭いた。
「彼女のどこが、かぁ」
うーん、と、少し斜め上を見上げながら、顎をさすって考えている。
「えー、すんなり出て来ないんですかぁ?」
あまりにも時間が掛かるので、私は思わず笑った。
「どこが好き、とは考えた事がないからなぁ……
彼女だから、僕は好きなんだろうからねぇ」
そう、自信満々な表情で、“父”は私を見つめた。
その顔と言葉に、私はあとをついて出て来る言葉が無かった。
「好きになるきっかけとして、どこがいい、とかあるかもしれないけれど。
それは単なるきっかけにしか過ぎないんじゃないかなぁ?」
堂々と答える“父”の顔が、凄く優しく見えて。
私は、心があったかくなる。
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