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「じゃぁ、手遅れじゃないよ。
だって、何も始まってはないんだから」
その言葉に、私は。
心が、震えた。
「怖いと思う事から逃げても、僕は構わないと思うんだ。
でも、大事なのは」
“父”の目が、優しく私を見つめる。
「逃げた後に、又向かって行く気持ちを持つ事だと思う」
……泣きそうになる。
あれだけ泣きたくても泣けなかったのに、“父”の言葉は、そんな心をゆっくりとあたためてくれて。
私の心を、包んでくれる。
唇を噛み締めると、向かい側から、あたたかくて大きな手が、私の頭を撫でてくれた。
まるで、子供のように。
「彼、幸せ者だねぇ、こんなに美沢ちゃんに思われて」
その、あたたかい声が、言葉が。
私のかたくなった心を、ゆっくりと柔らかくしてくれた気がした。
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