多情

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目が覚めると、トントンと包丁の小気味良い響きが耳に入って来て。 味噌汁の匂いが、鼻をヒクヒクさせる。 「おはよう、お母さん」 「あら、早いわね。もう起きたの?」 そう笑顔で母は答え、又手元の包丁に目を落とす。 今日の午前8時半の列車で、又戻る。 直太と同じ、あのマンションに。 母も仕事があると言っていたので、そう長居は出来ない。 その事も、少しだけ寂しさを感じるが、又こうして、気軽に帰って来ようと、母のよそったご飯と味噌汁を口にしながら、心に決めた。 母と二人だけの朝御飯。 向かい合わせになると、母は嬉しそうに私の食べる姿を眺める。 見すぎだよ恥ずかしい、なんて言うと、何を今更、と、母も味噌汁を啜った。 「又、遊びに来るから」 「遊びに来るんじゃなくて、帰って来る、でしょ」 その言葉が今の私には少し優しすぎて、返す言葉がなかった。 早く仕事に行きなよと促しても、まだ時間あるから、と、駅まで見送ってくれた。 たまには栄養のつくもの食べなさい、と、母の作った料理を大きなタッパーに入れて渡された。 駅に着くと、改札付近で、身体に気を付けなさい、と言われた。  
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