多情

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列車をホームで待ちながら、母の優しさを噛み締めていると。 デニムの後ろポケットに入れていた携帯電話のバイブが急に鳴って、慌てて出た。 「もしもし? 亜以子チャン?」 『ようやく掴まった美沢ー! そこら辺、圏外!?』 「あ、そうだったみたいだね、全然気付かなかった。どうしたの? そんな慌てて」 『あ、あのね、落ち着いて聞いてよ?』 ―――……。 何、の、話……? 『ちょっと美沢、聞いてる? もしもし? 美沢?』 ホームに入って来た電車が、余計に私の思考を掻き乱した。 もう耳には入って来ない、慌てた亜以子ちゃんの声が、頭の中で、こだまする。 指は勝手に終話ボタンを押し。 置いていた荷物を握り。 思考を伝達する前に、足は列車へと向かって出ていた。 ……直太、が。 意識、不明。    
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