多情

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それじゃお願いね、と木田さんに頼まれ。 私は着の身着のままの状態で、エレベーターに乗り込んだ。 3Fを押す手が、少しだけ、震える。 中野さんが、荷物まとめに来てるんだ……。 でも、今の私には、そんな事はどうだって良くて。 むしろ、直太の為にしてくれてる事が、有難くも感じた。 そして、私の他にも、直太の為にしてくれる人が居るんだと、実感した。 直太の部屋の前にあっという間に着き、ドアの前で、少しだけ緊張した。 数週間ぶりに入る、直太の、部屋。 相変わらず、無機質な部屋なんだろう、と。 自分の記憶を蘇らせる。 こんな非常事態に、直太の部屋に入れる喜びを感じた自分を。 不純だと思いつつ、少しだけ許した。 ドアノブを掴むと、少し静電気が走り、一度だけ手を離した。 不純な気持ちを持ったバチが当たったんだと、ちょっと前に感じた喜びを、後悔した。 急がなくちゃ。 急いで用意して、直太に会いに行かなくちゃ。 意識がないんだから、直太は私なんて待ってはいないだろうけど。 それでも、急いで会いに行かなくちゃ。  
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