肉喰みし、宴の冬

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吐息すらも凍てつくような冬の事でございます。 村は飢えておりました。 その年は稀にみる不作の年でございました。 寂れた寒村でございます。 糧はすぐに底を尽きました。 糧を求めて山に入り、戻らぬ者が幾人もおりました。 やがて村人は一人、また一人と力尽きてゆきました。 頬がこけ、あばらの浮き出た村人達はさながら骸骨のようでございました。 道には力尽きた村人の骸が幾つも野晒しになっており、まさに地獄絵図の如き惨状でございます。 私達は木の皮を噛み、草を貪り、泥を啜って飢えを凌ぎました。 ですが、そんな物で腹が満たされよう筈もございません。 皆、糧を求め、血に飢えた獣のような目をしておりました。 しかし、小動物を追う気力すらも残ってはおらず、皆の目は次第に村の内に向けられてゆきました。 そこからは終わりなき狂気と欲望に満ちた世界でございます。 親が子を喰らい、夫が妻を喰らいました。 皆が糧を求め、己が食欲に導かれるままに血みどろの惨劇を演じました。 すべては空腹を満たさんがために……。やがてそこは人のない村となりました。 私は生き残った者達と共に村を出ました。 そして幾日もあてもなくさ迷い歩き、この山に辿り着いたという次第でございます――――
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