肉喰みし、宴の冬

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―――私は商いによって食い抹持を稼いでいる。さほど大きな商いではない。 その日はひいきにしてもらっている客に招待された帰りであった。 日も沈み始めた頃、私は山道を従者と山中をうろついていた。 帰り着く前に日が暮れてしまいそうなので、私達は野宿出来る場所を探していた。 しかし、辺りには雑然と草が生い茂っており、寝床探しは難航していた。 従者は心なしか不安そうにしている。 この山は昔から怪談話などの舞台によく使われる。 そういった民間伝承の多い地域なのだそうだ。 山姥が住んでいるとか、鬼の巣があって人をさらって喰らう、といったどこの地域にもあるような話ばかりだ。まったく下らない。 従者をしっかりしろと叱りつける。 私としては妖怪の類よりも寝床の無いまま夜を迎えることのほうが遥かに恐ろしかった。 ようやく小さな洞穴を見つけた時にはすでに日は沈み、月明かりが辺りを照らしていた。 私達は寝床を見つけたことに安堵し、腰を下ろすとすぐに眠りに落ちていた。
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