序章~予兆~

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…蜀の景耀〈ケイヨウ〉五年(西暦262年)、蜀漢の首都の成都にある宮殿の大樹が、突然ひとりでに倒れるという事件が発生した。 人々は不思議に思いながら片付けを始めたが、その中で一人じっと倒れた樹を見つめる者がいた。 名誉職について政治の実務から遠ざかっていた、譙周である。 彼はしばらくして自宅に戻ると、書簡を手にとって、何かに動かされるように次の様に記した。 「衆にして大なれば、期して会す。具して授くれば、如何ぞ復せん」 これは「衆」は魏の曹氏を表し、「大」は国号「魏」を意味する。また、「具」は劉備を、「授」は劉禅を表しており、総じて蜀漢の滅亡を意味していた。 以前に天文官の職にあった譙周は、度々このような予言をし、また当たっていることが多かった。 彼は自ら記したその書簡をしばらく見つめ、やがて首を振ってため息をついた。 (この様な事、当たらぬ方が良いのだが…) 国の滅亡の予言など、あってはならないものではないか。誰も必要としていないものに違いない。 彼はその書簡を薪にくべてしまったのである。 彼の予言と心配が現実のものとなるのは、今少しの時間を置いての事であった…
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