出会い

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出会い

それはスローモーションのように緩やかに思い出せる。まだ、あっと言う間の桜も散ったばかりの頃だった。 突然、流華(るか)は洋二に話しかけた。 『その傷どうしたんですか?』 洋二の少し伸びた、いや、伸ばした前髪の下の狭い額には、絆創膏程度の大きさで、包帯が留めてあった。 思えば、ほんの数日前。修羅場と化した男女の戦場で負ったばかりの傷を、どう考えても突っ込まれそうな白い包帯で隠していた洋二。 流華が話しかけるのも何か必然のような、そんな少し小さな運命的出会いが、その後、季節を6つ、跨いでいくとは誰が想像しただろう。 そう、誰も知る由のない、脆くて危うい恋は、一度目の春に芽をもたげたのである。
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