1165人が本棚に入れています
本棚に追加
渾身の力で腕を振り抜くと。
思わず目を閉じた。
一寸先の未来を否定したかったからだ。
刹那、鈍く、重い音に、現実に引きずり戻された。
目を開けると、凄惨な光景が飛び込んできた。
立ち尽くすキャッチャー…
目を覆う、バックネット後ろの観客…
飛び散った、ヘルメットの破片…
急いで駆け付けた、相手チームの監督…
そして…
倒れこんだ北見。
スピードガンは、144㎞/hを計測した。
北見は立ち上がり、ニコッと笑顔を、周囲に見せてから、一塁へ歩きだした。
ただ呆然とした。
帽子をとるのも忘れ、立っていた。
スリーフィートラインの始まりまで行ったところで、北見は、また倒れこんだ。
担架で運ばれる北見を、マウンドから見ていた。
そこからは、ほとんど無意識で投げていた。
7回表が終わったときには、スコアは2ー4。
覚えていないが、打たれたらしい。
裏の攻撃に入り、先頭打者が討ち取られたところで、ようやく負けていることに気付いた。
最初のコメントを投稿しよう!