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そんな僕の反応を見て、優梨香(中)は僕の右ほほを優しくなでました。
「……さて、私の言いたいことはこれだけだ。今日はもう許してあげる」
そう言って、優梨香(中)はナイフを下げ、僕の腕をひざの裏から解放しました。
僕は自由になった腕で、優梨香(中)のほほに触れました。
「匠?」
首をかしげる優梨香(中)。
僕は“彼女”ではなく、落ち込んでいる彼女の方へ、
「ごめん……」
十五年間生きてきた中で、一番重い「ごめん」を告げました。
「ごめんね優梨香。寂しい思いをさせてごめん」
僕は、優梨香は人並み以上に誰かに嫌われることを怖れているのではないか、と考えていたというのに。隠れて泣かせるくらいに落ちこませていただなんて……。
反省。優梨香への謝罪。自分への怒り。
そういった気持ちのすべてを、僕は三文字にすべて込めました。
優梨香(中)は彼女の中で眠る優梨香に向けられた謝罪の言葉だとじゅうぶんに理解し、
「大丈夫だよ、全部わかってるから」
優しい声でそう言ってくれました。
「ありがとう、優梨香」
「ああ。ありがとう、匠」
謝ってくれてありがとう、と優梨香(中)は言いました。
そして、優梨香(中)はゴソゴソと僕の胸からお腹の方へ体を動かすと、おもむろに僕の顔へ自分のそれを近づけてきたのです。
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