629人が本棚に入れています
本棚に追加
胸からお腹にうごめく柔らかい感触に不謹慎にも浸っていると、近づいてきた優梨香の唇は、僕の左ほほに触れました。
「――――ッ!」
左ほほには、優梨香(中)が付けたナイフの切り傷。そこから流れる血を、彼女は舐めとったのです。
「んっ……おいし」
僕のほほの上で彼女の舌が生き物のように動き、熱い彼女の息が僕の意識を朦朧とさせます。
流れた血を舐めとった優梨香(中)は、ついに傷口に唇を付けました。
まるで傷口にキスをするように、夢中で吸い付いてきます。
「やめ、て……。痛、いよ」
口ではそう言う僕ですが、扇情的な唇と舌の動き、そして鼻孔をくすぐる彼女の香りに、僕の体は逆らうことができません。
やがて、優梨香の唇が離れました。
「はぁ……ん」
なまめかしい吐息を漏らして顔を上げた優梨香(中)の表情を見て、僕の心の臓は急に跳ね上がりました。
目はトロンと焦点が合っておらず、全体に体の力が抜けた、今にも溶けてしまいそうな表情。
今の優梨香(中)は、艶っぽいという言葉でしか表現できません。
「たくみ……」
僕の名前を発音する、甘い声。
そんな表情とそんな声で名前を呼ばれると、妙な緊張感が僕を支配します。
最初のコメントを投稿しよう!