629人が本棚に入れています
本棚に追加
「ううん、大丈夫。気にしてないから」
「でも、その傷は……?」
えっ、と驚く気持ちを顔に出さないように、僕は我慢します。
優梨香は自分(の体)が付けたこの傷を覚えているのでしょうか。
「あの、夢で……たぶん夢だと思うんですけど、私、その、匠さんに……」
記憶の共有が行われたのかと思いましたが、優梨香は夢だという認識。
まだ大丈夫、と僕は判断します。
「ああ、この傷? これ、さっき自転車で買い物に行った時に、よそ見してたら小さな子にぶつかりそうになっちゃってさ。急いで避けたら近くの茂みに突っこんじゃって、切っちゃったんだよね!」
き、キツイです!
「こんな雨の日に、自転車ですか?」
「そ、そう。自転車で! 笑っちゃうよね、こんな雨の日に! あはは……」
「でも、こんな雨の日に、私はどうして匠さんの家にいるんでしょうか……?」
うっ……。痛いトコロを突かれました。さすがに、いい感じの言い訳が即座には浮かんできません。
「?」
優梨香は僕に答えを求めるように見つめています。
「優梨香!」
僕は、半ばやけっぱちで、優梨香を抱きしめました。
「た、たたた匠さん!?」
腕の中でおたおたわたわたする優梨香をもう一度少しだけ強く抱きしめ直し、僕は言いました。
「……僕は、君に謝りたいんだ」
最初のコメントを投稿しよう!