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一ヶ月間も寂しい思いをさせていたこと。それに気付けなかったこと。
僕だけが、楽しくて充実していると思える時間を過ごしていたこと。
それらをすべて、
「ごめん、優梨香」
改めて、その一言に込めました。
激しい雨音はしだいに落ち着き、ぽつぽつと、屋根から雫が落ちる音が聞こえます。
「匠さん」
優梨香が言いました。
「どうしてかわからないんですけど、私、ずっとこんな風に抱きしめてほしかったんだと思います」
「……ありがとう、優梨香」
「はい。ありがとうございました、匠さん」
僕は抱きしめていた腕を緩め、彼女の顔を見つめます。温かい一筋の雫が、彼女の細いほほのラインに沿って流れていました。
「匠さん、キスしてもいいですか?」
不意に尋ねてくる優梨香。
僕はためらうことなく、うなずきました。
唇と唇が、重なります。
これで優梨香とは二回目のキス。“彼女”とのキスも含めると、三回目になります。
しかし過去二回のキスと比べても、こんなに心が温かい気持ちになったのは初めてです。目を閉じて、彼女の温かさを感じ取りました。
「えへへ、今日のキスはうれしいです」
「うん、僕も」
そして、最後にもう一回だけ唇を合わせて――、
――
「匠さん、ありがとうございました」
「うん。それじゃまた……数時間後に」
僕が優梨香を家の近くまで送り届けたのは、もう明け方も近い時間でした。
「さてと、学校で眠らないようにしなくちゃね!」
どこかすっきりとした気分で、僕は家に帰りました。
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