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浩司は後退りしながら首を振った。
「な……なにも恭子ちゃんに後ろめたいことなんかないよ」
「ほんとに?盗んだバイクで行く先も分からず走り出したら捕まりかけたんだよぉー……くらいのこと?」
「いやそれもないから。そんなこと普通にできないし」
「じゃあ……家でクリスさんにやらしい事したの……?」
「してないよ!?じゃあってなにその、いかにもやりそうだからみたいなその口ぶり!?」
全面的にそれはないと言い切れる。
昨日は「数学の出来が良くない」とかでクリスがかりそめ家庭教師となり、みっちり骨の髄まで勉強を刷り込まされていたのだ。
実際、手を出す猶予も机に向かわざるを得ない熱心さであった。「これも浩司様を思って」と念づけられてしまうと厭味の一つも出せない。
かくがくしかじかその事を話すと、恭子は一段と拗ねたようになる。
「それこそ不健全だよ。勉強ならあたしだって教えてあげられるのに………クリスさんが付きっきりで家庭教師なんて……」
「勉強ばっかやってたんだよ?やれ微分だ、置換積分だって、息抜きも少ししか取らせて貰えなかったし、授業やってるのとまるで変わんなかったよ。結局終わったら日付変わってたし、その後すぐ寝たけど今日は学校で早く起きなきゃいけないし、もうくたくたさ」
「………それなら、どうしてやましいこともないのに浩司くんはおどおどしなくちゃいけないの?」
「あ……だからさ……それは…」
どんどん嗅ぎ回ってくる恭子。
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