アイ ニード ザ サン

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入口近くのカウンターにはレジを打つ”かめなし”と財布から金を取り出す主婦っぽい客。 その後ろに並ぼうと歩きだした俺。 そしてその足を止めたのはサラリーマン風な、スーツを着た30代半ばくらいの男だった。 そいつは”かめなし”が立つカウンターより店内奥側の『レジ休止中』ってプラスチックボードが立てられたカウンターの斜め横――、 壁側の惣菜やらが並んだ棚の前に突っ立ってんだけど。 どれにしようか悩んでるって感じじゃなくて、どうにも”かめなし”の動きを気にしてるって雰囲気だった。 ”かめなし”の立つカウンターからそいつの立ち位置は、見えづらいけど死角になってるって程でもない。 俺と話しながら店内の客の動きもしっかり見てたアイツだから、たぶんコイツの事も気付いてはいるんだろうけど―――‥ 「ありがとうございました」 ”かめなし”が客に釣りを渡したその瞬間、 スーツを着たそのオッサンは予めジップを開けていただろうビジネスバッグに、持ってたおにぎりをふたつ入れ込んだ。 はっ―――?! っつーかそのトシで万引きかよ?!! 「―――おまっ‥!」 胸ぐらの一つでも掴んでやろうと踏み出したとき、 そいつは何食わぬ顔で”かめなし”のいるレジに適当に手に取った饅頭やらをバサッと置いた。 「563円です」 商品をレジ袋に入れていく”かめなし”にそいつは捨てるような手つきで千円札をカウンターにひらつかせた。 はらりと落とされた札を静かに”かめなし”はレジにおさめて、映し出された『437円』の文字を確認してから釣りを取り出す。 ―――あいつ、万引き気付いてない…? しっかりしてんのかヌケてんのか、わっかんねーヤツだな!! 「オッサン!!!」 目の前には呼び止めた声にあからさまに動揺しだしたサラリーマンと、釣りを渡そうとした手がフリーズした”かめなし”。 やっぱ気付いてねーな… 間抜けにも(つーか好都合だったけど)開きっぱなしのジップのビジネスバッグをオッサンから掴み取った。 同時にオッサンの叫び声が響き渡って、 「お前っっ?!何するんだ!!よせっっ―――!!!」 ってのを聞き流しながら、カウンターの上にバッグの中身を真っ逆さまに落下させた。 .
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