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”かめなし”のバイト先から徒歩15分の俺の家。
目的地はもちろんソコじゃないけど。
歩いていく距離じゃないトコだし”ちょっと寄っていい?”ってチャリンコ取りにいったん帰った。
帰りながら話したことは、
『亀梨 和也ってフルネームなコト』
『俺と同じく高3で、やっぱ中央高校だったってコト』
『同じシフトのヤツがバイトぶっちぎったお陰で、先週から一人体制だってコト』
『プリンはカスタードより生クリーム派ってコト』
…やっぱ甘党なんだ。
15分で話せたのはこれくらい。
でもたわいない話しの一つ一つが、俺にとってはどれもすっげえ貴重なコトに思えた。
カシャン、って金属音が駐輪場に小さく響く。
いつも持ち歩いてるチャリンコのステップをつけて、乗れって目線で促した。
教科書を持ち帰るなんて習慣のない俺にはありえない、鞄本来の厚みを持ち合わせたそれを亀梨は黙ってカゴに入れた。
俺の肩をぐっと掴んでステップに乗る。
「落ちんなよ?」
「ムチャな運転じゃなきゃな」
素っ気ない態度なんだけど、こいつだと嫌な感じがしないのはなんでなんだろう?
「気分次第じゃね?(笑)」
「ふざけんな!」
「んじゃしっかり掴まっとけよ」
亀梨の指先にぎゅって力が込められて―――‥
俺の心臓は肩にふたつついてんじゃねえのかってくらい、全神経が集中した。
「はいっ到着~!こっからちょっと歩くぞ」
目の前に現れた、少し長いその階段を見て疑わしげに
「ほんとにちょっとかよ‥…」
って亀梨が呟く。
「嘘はつかねえ主義だけど。ちょっとかどうかは個人差あっかもな?」
いってもマンション5階まで上るくらいの段数しかねえけど。
バイト終わりの体には応えるか?
「いくぞっ」
言ってポケットに手を突っ込んだまま階段を上り始めた。
5、6段めに足をかけたとき。
話しかけた言葉に返事がなくて振り向くと、
亀梨はまだ階段の前で立ち止まっていた。
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