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「おい、どしたー?」
聞いても返事はなくて。
何かを躊躇うように、階段の真ん中に備え付けられた手すりを握ったまま亀梨は動かない。
さすがに心配になって、下にいる亀梨の元に降りていくと明らかに強張った表情をしていた。
「え‥と、大丈夫か?」
駆け寄った俺の声にはっとしたように亀梨は俯いていた顔を上げると、
「‥…大丈夫。」
って決心したように言った。
一呼吸置いてから手すりを掴む力を強めると、亀梨は一段目を踏み出した。
俺も今度はちゃんと亀梨の隣を歩いて。
ただならぬ雰囲気に、聞きずらかったけどやっぱり亀梨のことは知っておきたくて意を決する。
夜風を感じながら、心を落ち着けて。
「…なあ、お前体力ないほう?」
「……いや、」
体が弱いワケじゃない。
とすると…‥?
「あー‥、じゃ視力わるい、とか?」
「……まあ、そんなとこ。」
コンタクト忘れただけとか?
「そっ‥か。暗いよな、ここ。階段見えずらいんじゃね?」
「平気。別にたいしたことじゃないし」
‥…の割には、えっらい慎重じゃね?
「‥かばん、持とうか?」
「―――――悪りぃ。」
申し訳なさそうに鞄を差し出す亀梨の額には汗が滴りだしていて、前髪がそれにひっついていた。
「コンタクトしてねえの?だいぶ足元見えてねえんだろ?」
「‥………………。」
ああっもうっ!!!
意地張んなよ!!!
「ったく、ほらっ!!」
ぎゅっ、てかめなしの手を握って
その苦し気な顔を覗き込んだ。
「俺の前では強がんな」
生い茂る草木が夜風をつくりだして、
俺達のあいだを吹き抜けた―――
この風が、
お前の抱える不安も、連れ去ってくれればいいのに。
すこしの沈黙のあと、お前は優しい顔をしてゆっくりと頷いた。
それから会話はなかったけど、気まずさはひとつもなくて――――…
ただ、
握りしめた手から伝わる感情だけが、
切なさが入り混じってる気がした。
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