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「未成年への酒の販売は出来ないんすけど」
あー嫌いじゃねえな、こーゆう声。
低くて掠れ気味なんだけど耳に馴染むっつーか。
屈んだ姿勢を戻して声の方へ視線をやると、ベコボコにへこんだ缶ビールを片手に店員が不機嫌そうに言った。
眉根に皺をよせて、これって威嚇してんのか?
だけど尖らせ気味のくちびるが逆効果だし。
「…あ、あー、すんません。ぇっ、と…でもそれ、弁償します‥」
っつー訳で酒買えねえかな。
「いや、大丈夫なんで。買うのツマミだけにしてもらえますか?」
あー。見かけ通りだな。
優等生タイプ。
髪も俺みたいにカラーリングしてなくて、艶のある黒だし。
コンビニエプロンの下に着てる白シャツには丁寧にアイロンがかかってる。
あの白シャツ自前か?
見たとこ、俺と同い年くらいだから高校生だよな。
それならどっかの制服か‥…どこのだ?
工業?いや、中央のじゃねーか?
それならやっぱ優等生。
ってことはあれじゃね?
俺みたいなばか学校の制服なんか着てるヤツが酒持ってレジ並んだ日には……
”店長お願いしま~す、こいつ酒買おうとしてるんで!”とか何とかで事務所まで通されたりとか?!
そんなんマジありえねーから!!!
「今日はツマミだけで!!」
持っていた缶ビールを勢いよく店員に渡すと、そいつはため息まじりに呟いた。
「今日はっつか…未成年だとダメだから(笑)」
あ、墓穴……(泣)。
でも律儀にも突っ込んでくれんだ。
こいつイイヤツなのかも?
中央にもいんだな、こんなばか学校の俺とフツーに話してくれるヤツが。
つか、ホントに中央?
なんか興味あんだけど。
まじまじと白シャツを見定めていると、エプロンにつけた店員の名札が視界に入った。
「かめ、なし…」
「―――はっ?」
「ああっ!いやっ、その…レジ!!ツマミ買うんでっ!」
「…じゃあ、こちらへ」
慌てふためく俺に”かめなし”は、ふふって笑った。
一瞬のその顔がやけに幼くて、今でも忘れられないくらい印象的だった。
それが、俺と和也の出会いだった。
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