かなた

3/4
前へ
/4ページ
次へ
冷たい滴が頬を伝う。 彼女の事を思い出そうとすればする程、決まって、体は拒絶するように痙攣を起こした。 確かに彼女は存在した。 それは確信となって、凪斗の胸を締め付けた。       ―いいよ―       ―約束―    ―夢の中で会いに来て― 優しい約束。 その時一瞬彼女の顔が浮かんだ。 目から大粒の涙を流し、必死で嗚咽を堪える口。 肩を小刻みに震わせ、笑顔を作ろうとしてうまくいかず、泣き顔を腫らす。 「待ってマユ」 思わず叫んで我に変える。 「マユ・・・」 確かにそう言った。 マユ。 自分の口から出た言葉に挨拶する。 「君はマユて言うんだね」 「よろしくマユ」 そこまで言って、激しい目眩に景色が逆転する。 視界はぼやけ、黒い蛆が体のそこから這い出して、肌と言う肌を浸食していった。 遠のく意識の中つぶやく。 マユ・・・
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加