24人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから、もう何年の月日が過ぎたのだろうか。
今私は、あの赤い花畑に訪れている。
私の体は衰え、年老いた姿だった。
あの日、西都さんが死んだ次の日から、私は手紙に書かれていた通りにしっかり働き始めた。
友達も出来て、夢だった子供に本を読むことも叶えることも出来た。
西都さんのお墓も知らないし、死体も見ていない。
本当に西都さんが死んだのかさえ分からない。
分かっているのは、西都さんが私の前からいなくなり、きっとまた会えると感じたことだった。
自分の初恋は、未だに続いて終わっていない。
結婚もしていないし、他の男性とも交際を一度もしていない。
でも、私を母と呼んでくれる子がいる。
親のいないその子を私が引き取って、育ててきたのだ。
西都さんと似ていたとかではなく、きっと私は寂しがったのだろう。
今はその子も一つの家庭を持ち、妻と子供と共に幸せな人生を歩んでいる。
私は今この場に立って、西都さんを待ち続けている。
ここで待っていれば、西都さんに会える気がした。
年老いた私の今の姿を見た西都さんは、会った時に何て言うのだろうか。
―――それでも……嫌われてもいいから……会いたい。
私が死ぬ前に、一目でいいから会いたかった。
―――――そして。
ふと前を見てみると、そこには私に手を振っている青年の姿があった。
あの日、楽しくて幸せだった若い頃の西都さんだとすぐにわかった。
目を瞬き、その姿を見て呟く。
「……西都……さん」
そして彼に、自分の手を伸ばす。
それは皺がなくなっていて若い頃の私の手だった。
「西都さん」
声も若い頃に戻り、愛しい彼の名を呼ぶ。
西都さんは何かを言っているが、聞き取れなかった。
でも、私にはわかった。
西都さんは私の名を呼んでいる。
駆け足で彼へと向かってゆく。
涙が止まらない。
そして、もう離れることなんてないのだから。
「西都さん……愛しています」
ただ、言葉だけをを紡いで……。
―――ずっと……貴方と一緒に……。
そして彼女は、あるはずのない幻想と共に、赤い花達に囲まれながら、一人で永遠の眠りについた。
………
――完――
最初のコメントを投稿しよう!