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僕は近所の公園から憐香さんの家へ通っている。
何故そんな所に住んでいるかというと、他に住むところがなかったからだ。
いや、ホテルくらいはあったが、金を無駄遣いしたくはなかったし、この公園からだと楽ができる。
それに、憐香さんの身に何があっても、すぐに駆けつけられるから便利な方だ。
そして、先ほどからずっと感じていた視線に声をかける。
「出てきたらどうですか?……もうバレてますから」
そうすると、木の陰から軍服を纏った青年が姿を現した。
「いつから気づいていた?」
「憐香さんの家に入る前、何か視線を感じました。……そして家を出たときにわかりましたよ。……"影流"」
この影流という青年は、僕が所属していた隊の仲間だった者で、隊が解散してから軍隊に残ったと聞いていたけど、今この場にいる理由がわからなかった。
「あの女にどうやって自分のことを説明したんだ?」
「それは重治さんに教えてもらった通りに説明しました。……お父さんの遺言を受けたって」
その通りに言えば、納得してもらえると助言された。
―――嘘は……あまり言っていない。本当のことでもないけど……。
「それより、来る前に通ったあの赤い花畑、誰が育てたんだ?」
「あれは黒条さんが蒔いたものです。……別に誰も世話なんてしてないはずですけど……」
確かに、あの花畑は見事だった。
誰かにあれを見せたい気持ちはよくわかる。
「……そうか」
影流はそれだけを聞き、もう用はないと言わんばかりに背を向けた。
「影流……これからも、僕を見張るつもりですか?」
そう聞くと、影流は振り返りながら言う。
「違うさ。お前達二人を見張るんだ。……死ぬなんて俺が許さない」
僕は心配してくれる影流に、心の中で感謝した。
―――ありがとう……影流。
そして影流は何処かへ行ってしまった。
それから僕は影流を見送った後に、この前に行った山の花畑を思い出す。
―――あの赤い花……憐香さんによく似合ってたな。
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