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「僕が手紙を残しておきます。きちんと薬で憐香さんを操って殺されたって……それを説明しておけば、少しはそれもなくなるかなって……」
―――死を選んだのは僕自身なんだから……。
「……お前はそれでいいのか?あの女を愛しているんだろ?」
僕はその当たり前の問い掛けに、静かに答えることができた。
「好きです。……愛しているから……だから殺されたい」
あれで影流は分かってくれただろうか?
多分、何らかの仕掛けをして僕を止めてくるはずだ。
だから、念のためにナイフの刃先に毒を塗っておく。
これで、どんな仕掛けがあったとしても無駄になるから。
その時、僕の手は震えていた。
―――僕は……死ぬんだ。
憐香さんに殺される。
それは嬉しくもあり、怖くもあるが、やっと罪が償えることができる。
憐香さんには後で質問に答えると言って、薬の入った料理を用意する。
手紙で質問の答えを教えることとなるのだから、嘘ではない。
その手紙は、今日買ったぬいぐるみに置いておくことにしよう。
僕は憐香さんの待つ部屋に入るのを落ち着くまで待っていた。
―――手が震えている?
そして料理を運んで、憐香さんに食べてもらった。
これで感情は虚ろになって行動することとなる。
完全に憐香さんの体に薬の効果が表れるのを少し待つ。
すると、憐香さんの様子がおかしくなってきた。
認識能力の低下を起こしているから、すでに僕のことは分かっていないはずだ。
「貴方は……誰?」
僕が誰なのかと問いかけると、憐香さんはそう答えた。
憐香さんに忘れられたのだと思うと、涙が溢れそうになるのを感じた。
それでも僕は、止めることなんてしない。
そして僕は憐香さんにキスをした。
もう、これで未練なんて少しもない。
ただ、憐香さんはこれが何なのかを分かっていないのが残念だった。
何もわからない憐香さんにキスをしたことが、嬉しくて、悲しくて、惨めに感じてしまった。
そして僕は言葉を紡ぎ、憐香さんにお父さんのことが好きかと問い掛ける。
憐香さんは当然のように頷く。
―――これで……良いんだ。
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