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次に僕は、お父さんは帰って来ないことを告げる。
憐香さんは悲しそうな表情となり、声にならない声を上げる。
それだけで、僕は辛くなった。
今僕は憐香さんを苦しめている。
守りたかったはずの、愛したこの人を……。
それでも僕は続けた。
「どうしてかわかりますか?」
………
「……僕が貴女のお父さんを殺したからですよ?」
………
「憐香さんのだーい好きなお父さんは僕が殺しちゃいました」
これだけ言っても、憐香さんは動こうとしない。
憐香さんの手にはナイフが握らせてあるのに、それで僕を刺そうとしない。
きっと、それをナイフだと認識できないでいるんだろう。
そして僕は、さらに追い討ちの言葉を言う。
言いたくもない、嘘の言葉。
「えーっと何か最後に言っていましたね。何でしたっけ?済まないだったかな?もうそんなこと覚えてないですけどね!あはははは……はは」
今でも僕は黒条さんの言葉をしっかりと覚えている。
「あ……んな人……死ん……で……当然……」
―――憐香さん……早く……僕はこんなこと……言いたくない。
涙まで出てきて、上手く言葉が出せない。
憐香さんと話す最後の言葉になるかもしれないというのに……。
―――――その瞬間。
憐香さんはナイフを振り上げ、僕の胸元に狙いを定めた。
―――避けれる……けど、避けたくない。……これで良いんだ。
僕は瞳を閉じて、その時を待つ。
そして憐香さんはナイフを振り下ろし、僕の胸に刺さった。
「これで……よかったんですよね……」
それは誰に言ったのか、僕ですらわからない。
体の中から血が大量に流れ出る感覚が、何故か心地よく感じる。
―――僕の三つの誓いは果たせた……。
毒が僕の体を蝕み、息絶えるのは時間の問題。
「君を……守ることができた」
憐香さんは一人でも生きてゆける。
「僕は……君を最後まで愛することが……できた」
僕は君を愛することができて、幸せだと感じる。
「そして……最後は君に殺されること……」
君の手で……愛する君に殺された僕に後悔は一つもない。
そして僕はそれだけを呟き、真っ白な意識へと包まれていった。
………
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