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「てか、あんたなんて老けて見えるよ。高校生、ホントに?」
素直な感想が口からついて出た。聞いた彼は、明らかに不機嫌そうな表情になり、言ってはいけない事に触れてしまった気がした。 「あーなんか喉渇いた。お姉さんが、ジュースをご馳走してあげるわ」
何がいい?と、近くの自動販売機を指差す。
「コーヒー、甘くないやつ」
了解、私は鞄から財布を出し歩いてく。
コーヒーとジュースを持ち、彼の座るベンチに腰掛ける。はいっと、コーヒーを渡す。
「…ありがと」
まともな物の言い方だった。私は笑ってしまった。 「いえいえ🎵」
ジュースをごくごく飲む。喉に心地良さが広がっていく。
おい、と隣で呼ばれた。何よ、と彼を見る。
「名前、教えてよ」
と彼は言った。
「まず、人に名前聞く前に自分が名乗りなさい」
「菊池怜、高三の18」
きくちりょうかぁ、心の中で呟く。
「私は、三井明日香」
私は、笑って自分の名前を告げた。つられてか、彼-怜も笑う。
「あんた面白いな」
「明日香よ、あんたじゃないわ」
さんもつけなくていい、私は言った。
「…んでは、明日香。明日香、面白いよ。それに-」 怜は突然真剣な顔になって、
「声。良い声、してるよ」
そう言った。
そんな事言われたの、初めてだった。ましてや、会って間もない男の子に、こんな事…。とっても、くすぐったかった。照れ臭い。 「何言ってんのっ」
私は立ち上がり、空になったカンを捨てに行く。怜の顔をまともに見る自信は無かった。
じゃあねとだけ言い残し、手をヒラヒラさせた。
「待って!」
呼び止められ、振り返る。
「何?」
「携番、メアド…教えてくれる?」
「いいけど?」
私は無意識に了解していた。
今日は携帯の番号とアドレスを教えあって、私達は別れた。
公園の中を歩いてると、風が木の葉を揺らしていた。葉は綺麗な緑で、初夏を感じさせた。陽は傾き始めてい、葉の隙間からオレンジがこぼれていた。
気持ちが良いと思った。いつもよりも、歩くペースが自然と遅くなった。家に帰る途中、何度も怜を思い出した。
-彼との最悪な出会いは、少しずつだけど変わって行く、そんな気がした。
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