第1章 出会い

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(冗談じゃねぇ!) 『宏ちゃん?』 無邪気な由紀の声に二ヶ月前の地獄を思い出して、とっさに嘘を考える。 「う……あのさ、今 家にいないんだよ。昔の友達がたまたま店に来て、久しぶりに。そいつン家で飲み会。だから……また今度な」 しどろもどろで吐いた嘘だ。 「友達」が誰か、つっこまれたら何と言ったものか。 由紀は無意識に鋭いところを突くから。 『えぇ~?うーん……そっかぁ、わかった。じゃあ今度ね。おやすみなさぁいっ』 ツー…… 「はぁ……」 生きた心地がしない、とはこの事だ。 ひとまずは疑われずに済んだ。 しかし。 (まずこいつをここに連れて来たのが間違いだよなぁ……) 今日は仕方ないとして、長くても四、五日…いや、三日だ。 素性も知れない奴を泊める義理は、無い。 家でどんな事情があるにせよ、俺には関係ない。 早く追い出さなくては。
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