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(長くても三日……様子見て、熱が引いたら家に帰すか)
こいつが何を恐れているのか、気にならないと言えばそれは嘘になる。
帰りたくない、と言うのなら無理に帰すのは良くないのかもしれない。
それでも俺には俺の生活があって、こいつの為にその何かを崩されるのはごめんだ。
こいつの問題は自分自身で解決すべきことで、俺が助ける義理もない。
いくら気になるからと言って、これ以上の関わりを持ってまで知りたい事ではなかった。
俺は自分に言い聞かせる。
他人と必要以上に深く関わるのは、あまり賢い生き方じゃない。
他人はあくまで他人。
それ以上の何者でもない。
(どーしても帰れないって言うんなら未成年だし、警察に連絡するっつー手もあるし)
そんなことまで考えていたら、背後のベッドから突然詩の声が聞こえた。
「……い」
「あ、わりぃ。起こし……?」
毛布にくるまった奴は相変わらず眠っている。
ただ、あどけないその寝顔が苦しそうに見える。
「ごめ……なさい……」
夢でも見ているのか、それは俺に向けられた言葉ではなかった。
震えるように、小さく囁かれた言葉。
涙がつぅ、っと頬を伝う。
「ごめんなさい……」
悪い夢にうなされているのか、それとも……?
「詩?」
何を泣いているのか、俺には量りようもなかったが。
零れ落ちた言葉は苦しそうで、その涙は俺を不思議な気持ちに駆り立てた。
不思議な気持ち。
今まで他人に感じたことのない気持ち。
それは、好奇心とかいうものだったのかもしれない。
とても純粋に詩のことが気になった。
初めて、他人が気になった。
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