第1章 出会い

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自宅のマンションがある住宅街はにぎやかな繁華街を少しだけ奥に入ったところにあって、その割には結構静かだ。 それでも昼間はそこそこ人通りがあるものの、暗くなるとそれさえも無くなる。 こんな真夜中となれば人っ子一人いない、というのが、普段の俺の帰路だった。 だからこそ、誰もいない公園のベンチに一人ぽつんと座っていたその女は余計目についた。 歳は俺より確実に若い、十八、九といったところか。 見方によってはまだ子供と言っても可笑しくないくらいだ。 夜遊びの不良、というわけでもなさそうで、「家庭の事情」の家出少女か、それとも単なる酔っぱらいか。 (どっちにしてもわざわざ関わり持ちたい相手じゃねぇなぁ) 誰がどこで何してようが、そいつの勝手だ。 こんな風に言うと冷たい奴だと思われそうだが、実際のところみんなそんなもんだろう。 要はその影響が自分に降りかかるか否か、ということ。 自己犠牲なんて馬鹿げてる。 思いやりだ、優しさだ。 そんなものだって自分の利益がなきゃ成り立つわけがない。 助け合い、なんて言えば聞こえはいいが、言い換えれば保険だ。 手近な人間が困っている時に少し手を貸して「保険料」を払い、いざとなればそれなりの助けがもらえる。 相手の為に自分の身を危うくする必要はない。 困っている奴には少しの同情だってありがたいから。 「思いやり」なんてご立派な名前の便利なシステムだ。 別に俺はこういったシステムを嫌っているわけでも、そんな世の中を悲観しているわけでもない。 それならそれでいいと思うし、俺も利用するまでだ。 ただ、余計な厄介事を抱え込むつもりはない。 「人助け」を趣味にしているヒーローじゃないんだし。
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