第1章 出会い

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(あぁいう奴は放っておくに限る) つまらない干渉はしないほうが賢明。 そう考えて柵のすぐ横を通ろうとする。 しかし。 (生きてるよな…?) 近づいてわかってしまった事が二つ。 一つはどうやらそいつが寝ているらしい、ということ。 そしてもう一つ。 そいつの着ているのは黒のワンピース。 どう見てもこの寒空には厳しすぎる。 そういえば今朝は霜が降りていた。 風邪をひく程度ならまだ構わないが、この気温、しかも寝ているとなると、凍死なんて言葉も冗談では済まなくなってくる。 ここでそのまま帰って、騒ぎにでもなったら。 (俺ののどかな休日が……っ) ふと空を見上げればそこに星はなくて、追い討ちをかけるように雲が広がっている。 これは一雨来そうな雰囲気だ。 (……畜生!) 結局冷たい風と雨雲に負けて、そいつを起こしてから帰ることにした。 不本意だ。 「おい。起きろ、こんなとこで寝んな」 肩をつついても揺すっても、起きる気配さえ見せない。 しぶとい奴め。 「……起きろよ。雨、降るぞ」 その時。 (あーあ。降ってきちゃった) 大粒の冷たい雫が手の甲にあたる。 急いで肩を掴む手に力を入れた瞬間。 「……!」 ぐらり、とバランスを崩してそいつが前のめりに倒れ込んできた。 酔っぱらいかよ、と押し戻そうとして、ふいに気がついた。 (熱い……?) 俺の肩にのせられた頭から、ジャケットを通しても熱が伝わってくる。 おかしいと思って額に手を当てると。 「うぉわっ」 熱い。 軽く四十度は超えているだろう、熱。 (きっ、救急車っ) ところが。 携帯は電池切れ。 暗くなったままの画面はうんともすんともいわない。 (使えねぇじゃん!…公衆電話!) しかし携帯電話の普及したこのご時世、そんな懐かしいものはどこにも見あたらない。 (タイミングの悪い奴っ!) 仕方なく、そいつを抱えて自分のマンションへひた走る。 次第に降りの強くなってきた雨の中、頭に浮かんだことわざが二つ。 「君子危うきに近寄らず」。 そして「後悔先に立たず」。 ……ごもっとも。
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