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(あぁいう奴は放っておくに限る)
つまらない干渉はしないほうが賢明。
そう考えて柵のすぐ横を通ろうとする。
しかし。
(生きてるよな…?)
近づいてわかってしまった事が二つ。
一つはどうやらそいつが寝ているらしい、ということ。
そしてもう一つ。
そいつの着ているのは黒のワンピース。
どう見てもこの寒空には厳しすぎる。
そういえば今朝は霜が降りていた。
風邪をひく程度ならまだ構わないが、この気温、しかも寝ているとなると、凍死なんて言葉も冗談では済まなくなってくる。
ここでそのまま帰って、騒ぎにでもなったら。
(俺ののどかな休日が……っ)
ふと空を見上げればそこに星はなくて、追い討ちをかけるように雲が広がっている。
これは一雨来そうな雰囲気だ。
(……畜生!)
結局冷たい風と雨雲に負けて、そいつを起こしてから帰ることにした。
不本意だ。
「おい。起きろ、こんなとこで寝んな」
肩をつついても揺すっても、起きる気配さえ見せない。
しぶとい奴め。
「……起きろよ。雨、降るぞ」
その時。
(あーあ。降ってきちゃった)
大粒の冷たい雫が手の甲にあたる。
急いで肩を掴む手に力を入れた瞬間。
「……!」
ぐらり、とバランスを崩してそいつが前のめりに倒れ込んできた。
酔っぱらいかよ、と押し戻そうとして、ふいに気がついた。
(熱い……?)
俺の肩にのせられた頭から、ジャケットを通しても熱が伝わってくる。
おかしいと思って額に手を当てると。
「うぉわっ」
熱い。
軽く四十度は超えているだろう、熱。
(きっ、救急車っ)
ところが。
携帯は電池切れ。
暗くなったままの画面はうんともすんともいわない。
(使えねぇじゃん!…公衆電話!)
しかし携帯電話の普及したこのご時世、そんな懐かしいものはどこにも見あたらない。
(タイミングの悪い奴っ!)
仕方なく、そいつを抱えて自分のマンションへひた走る。
次第に降りの強くなってきた雨の中、頭に浮かんだことわざが二つ。
「君子危うきに近寄らず」。
そして「後悔先に立たず」。
……ごもっとも。
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