第1章 出会い

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「は?」 「いや、家は嫌です……ダメ。家だけは……やめて、ください。嫌です、嫌……」 イヤだ、ダメだとただ訴えて、身体を縮める。 首をすくめて、耳をふさいで、そいつは全身で何かを拒絶していた。 両手が震えている。 何故、家が嫌なのか。 何が、ダメなのか。 分からない。 分からないが、ただ一つだけ確かなのは、その「嫌」が「嫌悪」ではないということ。 嫌っているのではない。 焦点の定まらないその目の中に映るものは、紛れもない恐怖。 見間違うはずもない恐れ。 これほどまでに何かに怯えた人間は今までに見たことがない。 その剣幕に気圧されて、俺はそっと充電器に携帯を戻した。 「電話は、嫌……」 力の入り過ぎた拳が白く、血の気が引いている。 うつむき、うわ言のように繰り返すそいつの肩が小刻みに震えて寒々しい。 そう言えばまだ、雨に濡れた服のままだった。 「なぁ」 「いや……」 「なぁ、寒くねぇ?」 声を掛けるとびくりと顔を上げた。 まるで今初めて俺の存在に気付いたみたいに。 青白い、なんだかひどく憔悴した顔は頼りなく、今にもまた倒れそうに見えた。 「家に連絡はしない。……嫌なんだろ?どっちにしろ俺はお前んちの番号知らないしな。とりあえず今は……ここにいりゃいいんじゃね」 「……?」 「……熱が下がるまで、な」 じっと見上げるそいつの顔に、たちまち安堵の表情が浮かぶ。 それを見ながら、熱が下がったらすぐに追い出してやる、と心の中で呟いた。 「今……パーカー持って来るから、着替えて」 着替えを取りに部屋を出て、激しく後悔する。 (なんで自ら面倒抱え込むかな……っ) それでも三日もすれば関わりも無くなる、と自分をなだめて、クロゼットをあさる。 (家は嫌……か) あいつの怯えの対象が何なのか気になった。 だけどそれは、聞けない気がした。
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