第1章 出会い

7/10
前へ
/117ページ
次へ
「名前、なんて言うんだ」 そう聞いてみたのは、そいつが着替え終えて人心地ついてからだった。 用意したパーカーとジャージは、やっぱりこいつにはサイズが合わなかったようだ。 XLの俺のパーカーを着ると肩が落ちるらしく、それがこいつをますます幼く見せる。 そいつは「名前を教えたら家に連れ戻されるんじゃないか」ということを考えたようで、少しの間迷ったように考え込んでいたが、結局はぽそりと言った。 「き……」 「き?」 「……萩原、しらべです」 小声で呟かれた名前は少し風変わりで、だけど柔らかい音がそいつの雰囲気にはあっている。 「しらべ、ね。変わってんのな。どういう字?」 「詩……詩人、とか……詩集とかの詩。一文字で、しらべ……っていいます」 「ふーん……」 萩原詩。 頭の中に漢字を書いて、こいつの顔と結び付ける。 うん、詩って顔してる。 …どんな顔だ、と聞かれても困るけど。 「いいじゃん、なんか。詩、ぴったりしてる」 そのよくわからない感想を口に出すと。 そいつが、詩が微笑った。 不安そうだった顔が少しだけ柔らかくなって、なんだか困ったような顔で微笑った。 初めて見たその笑顔は儚くて、風が吹いただけでも脆く崩れてしまいそうで、だけどとても綺麗だと思った。 詩はガキみたいなのに、それでも何故だか笑顔だけは美人に見えた。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加