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「名前、なんて言うんだ」
そう聞いてみたのは、そいつが着替え終えて人心地ついてからだった。
用意したパーカーとジャージは、やっぱりこいつにはサイズが合わなかったようだ。
XLの俺のパーカーを着ると肩が落ちるらしく、それがこいつをますます幼く見せる。
そいつは「名前を教えたら家に連れ戻されるんじゃないか」ということを考えたようで、少しの間迷ったように考え込んでいたが、結局はぽそりと言った。
「き……」
「き?」
「……萩原、しらべです」
小声で呟かれた名前は少し風変わりで、だけど柔らかい音がそいつの雰囲気にはあっている。
「しらべ、ね。変わってんのな。どういう字?」
「詩……詩人、とか……詩集とかの詩。一文字で、しらべ……っていいます」
「ふーん……」
萩原詩。
頭の中に漢字を書いて、こいつの顔と結び付ける。
うん、詩って顔してる。
…どんな顔だ、と聞かれても困るけど。
「いいじゃん、なんか。詩、ぴったりしてる」
そのよくわからない感想を口に出すと。
そいつが、詩が微笑った。
不安そうだった顔が少しだけ柔らかくなって、なんだか困ったような顔で微笑った。
初めて見たその笑顔は儚くて、風が吹いただけでも脆く崩れてしまいそうで、だけどとても綺麗だと思った。
詩はガキみたいなのに、それでも何故だか笑顔だけは美人に見えた。
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