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「こんなことのせいで」
充は自身の脳汁が、耳から涙腺から溢れ出し、顔じゅうの真皮を焦がし捲り上げるような、何か熱いものを感じていた。大柄な彼は顔を認められぬよう、運転席の中で極限に縮こまり視線から上だけを窓に出していた。
精神の矮小さは弥増さる、彼は周囲にもし目撃者が存在したならば、どんな風に見えるかだけに心囚われ、轢いてのち最初の小路を左折し、とにかく自分の車を人目から遠ざけようとした。
「俺のせいじゃない。誰だか知らないが、自転車の奴が呆けた乗りかたをしていたんだ。それに、さっきの信号であいつが前に出ていたなら運命は違っていた」
充は寂れた工場団地の脇に車を停め、休日で人の気配の無さそうな工場に駆け込んだ。和式の便所に入り、戸の施錠を幾度も確かめ、パーティションに拳骨でガンガンと当たり散らし、半ら泣きべそをかいた。
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