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どれだけ探し彷徨ってみても、答えはとうとう、見つからなかった。それに、誰が悪いと言うことなどより、あの自転車の人、それだけが気にかかって仕方が無かった。
「お前は一体、どうしたいんだ」
もう、灰濁の煙りたちは何処かの遠い空へ逃げて行ったように思えた。
「お婆ちゃん」
充の瞼の裏に、腰の曲がりかけた、か細いお婆さんの歩む姿が浮かんだ。お婆さんは杖を忌み嫌い、矍鑠たる振りをして強がっていた。
けれども、何か砂利道でよろけるようなことが有れば、五分刈り少年だった充の洋服の裾を掴んで、引っ付いて、一緒にとぼとぼと、ゆっくり歩んだのが愛おしい。そういう夕暮れ時は、少年だった充より、ずっとずっとちっぽけな人に見えた。
「また、お婆ちゃんと将棋を指したい」
今はもういないお婆さんに彼は懇々語りかける。
「いつから、こんなにずるくて、こんな後ろ向きになってしまったんだろう」
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