第六話「いちばんの宝物」

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「私がダイヤを口に含んで、グラスに移したことに、気がついてたのね」 モニターには、ブラックチップに唇を寄せる寿久子が映し出されていた。 「三戸は、リタイアしたあと、お孫さんと遊ぶことを、何よりも楽しみにしておりました。今回の件で、それは先延ばしになりましたが、あなたはこういう結末を望んでおられたのですか?」 「あんな素敵な人を、お孫さんだけに独占させておくのは、もったいないわ。ほんとうの宝物は、みんなに愛されてこそ光り輝くもの。そう思わなくて?」 「やれやれ、わがままなお客様が多くて、ホテルマンは気苦労がたえませんよ」 「だから、私、このホテルが大好きなの」 虹山は、BOSSレインボーマウンテンを二缶だして、寿久子にもすすめた。 壁のモニターには、孫を抱きかかえた三戸の笑顔が映し出されている。 「BOSS HOTELの ほんとうの宝物に乾杯」 ふたりは、老ドアマンに敬意を表して、芳醇なコーヒーをかたむけた。
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