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「ふぅ」
緊張がとけると、無意識にため息が漏れる。
「なんか、バカバカしくなってくるなぁ」
カジノには、普通の人間が一生かかっても手にできない金額を、一夜の遊びに費やすセレブたちがたくさんいる。
そんな光景を二十代の若さで毎日見ているのだ。
それだけではない。
優秀なディーラーは、そのスキルで大きな収入をカジノにもたらす。
山口ひとみも、ホテルには、かなりの貢献をしていた。
「もうちょっと給料をあげてくれても良いはずだよ。それだけの仕事はしているんだから。いっそ歩合制にしてくれないかなぁ」
愚痴りながら派手な制服から、穴のあいたジーンズに着替える。
「今に見てなさい、私がどれだけこのホテルに必要な人間かってことを、支配人に思い知らせてやるんだ………………」
山口ひとみは、うっかり口に出てしまった心の声を慌てて飲み込んだ。
誰かに聞かれなかったか、周りをみまわし、ロッカルームが無人なのを確かめると、
「あぶないあぶない。口は災いのもと。どうしても早くお金が欲しい理由は、秘密にしておかないと…」
山口ひとみは普段、誰にも見せたことがない不敵な笑みを見せた。
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