第三話「7月7日」

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優秀なルーレットディーラーは、37個あるポケットの中から、かなりの確度で、選んだひとつにボールを落とすことができる。   もちろんそのことはプレーヤーも承知しているので、公正な勝負のために、カジノではディーラーがボールを投げ入れてから、客がベットする決まりだ。   しかし、ひとつだけ例外がある。緑色に塗られた『0』のポケットだ。   『0』に入った場合は、すべてディーラーの総取りになるルールなので、ディーラーは、テーブルにあるチップが多い時を見計らって、ボールを『0』に導く。   優秀なディーラーが、カジノに利益をもたらすのには、そんな裏がある。   「ネクスト・ゲーム」   山口ひとみの軽やかな声につられて、客がダイヤをベットし始める。   寿久子も、流れを逃してなるものかという表情だ。   その様子を見て、   (そろそろね…………)   と、思いながら、山口ひとみはボールを投げ入れた。
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