第四話「オッズテーブル」

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山口ひとみの手からボールが離れた。   客たちが次々にダイヤをベットしていく。   しかし、寿久子だけはテーブルからさっと手をおろした。   あれほど賭に乗り気だったはずだが、早々に勝負から降りてしまったのだ。   ボールの行方を追おうともせず、たっぷり浮かべたグラスの氷をカラカラと音を立てて揺らしている。   (読まれてる!)   山口ひとみの背を冷や汗がつたった。   寿久子が直前まで見せた積極的なポーズは、ディーラーへの擬態だったのだ。   ノーモア・ベットから、数十秒後、   ボールは、ぽとりと『0』番のホイールポケットに飛び込んだ。   「あら、またチャリティに寄付し損なっちゃったわねぇ」   まるで結果が見えていたかのような余裕の表情で、寿久子は言った。   (なんて心理戦なんだろう………………)   飲み物をサーブしている柳原は、思わずごくりとつばを飲んだ。   本来のルーレットは、ポーカーのように相手の手の内を考え、腹をさぐりあう、駆け引きのゲームではないのだ。
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