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ボールは『赤の14』に落ちた。
「勝負の女神は、寿様に微笑んでいるようですね。すこし、おやすみになりますか?」
柳原がスナックを勧めたが、
「いいえ、今の運を逃したくはないの」
寿久子は闘志をたぎらせ、次の勝負を待っている。
山口ひとみが、ルーレットのホイールを回し、「ネクスト・ゲーム」を告げた。
ディーラーは、笑みで感情を覆い隠す訓練をしているが、寿久子は、笑顔の奥を探る視線を、ボールを操るディーラーに向けた。
(次はどちらに落とすつもりなの?)
ボールを手放す直前まで、山口ひとみの指先には、かすかな躊躇があった。
乾いた音とともに、ボールがルーレットに飛び込んだ。
すぐさま反応した寿久子は、手に一枚だけ持っていた最高額のチップに熱くキスして、ベットテーブルに弾いた。
緩やかな円弧を描いたチップは、二倍返しのゾーンに転がった。
「二度あることは、三度あるはずよ」
そう言うと、残ったすべてのチップを、投げたチップの上に積み上げた。
寿久子が選んだのは今回も『赤』だった。
他の客も、彼女の勢いに便乗しようと、赤の場にダイヤが集中した。
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