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テーブルを預かる、山口ひとみは、青い顔で立ちつくしていた。
いっぽう、フロアマネージャーの柳原は、けわしい視線を部屋にいるゲストにむけている。
華やかなカジノにあってはならない、冷たい空気。
(これはまずいな…………)
虹山が、場の空気をなんとかしようとしたその時、
「お客様が落とし物をされたそうで」
場の緊張をゆるめる、何とも穏やかな声がした。
退職を数日後にひかえた、ドアマンの三戸である。
虹山は、万一に備えて、ホテルの生き字引ともいえる三戸に応援を頼んでおいたのだ。
カジノスタッフの制服に着替えても、三戸の年齢を感じさせないきびきびした動きは変わらない。
カクテルドレスとタキシードの客の間を縫うようにして三戸がテーブルに近づいた。
三戸は、笑顔で一礼しながら、部屋の客をチェックした。四十年間、ホテルの玄関に立ち続けてきた彼の頭には、全ての客の顔と個人情報がインプットされている。
「支配人代理、捜し物は、間違いなく、まだこの部屋にありますよ」
笑顔を崩さぬまま、虹山に耳打ちした。
虹山は老ドアマンの言葉に深くうなずいて(そして、犯人も、間違いなくこの部屋のなかにいるはずだ)と特別室にいるスタッフとゲストを、ゆっくりと見まわした。
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