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「ネクスト・ゲーム」
山口ひとみの声に魅入られるように、ゲストがテーブルに着いた。
「わたくしは、お客様をお見送りしなければなりませんので、これにて」
ピンチを救った最大の功労者は、軽く一礼して、静かにその場から姿を消した。
数時間後、ゲストの帰った特別室で小さな宴が開かれていた。
長年にわたりBOSS HOTELの顔として玄関に立ち続けてきた、三戸利夫の勇退を祝うパーティーである。
出席していたのは、特別に招かれた三戸の家族と、気心の知れた仕事仲間のみだったが、虹山の強い要望で、寿久子の顔もあった。
わきあいあいとしたパーティーは、虹山の挨拶でしめられた。
「長い間、本当にご苦労様でした。ホテルスタッフ、おおぜいのお客様、みんながあなたに感謝しています」
暖かい拍手がわいた。
「この場をお借りして、総支配人からの伝言をお伝えします。今回のことで、当ホテルには、まだまだあなたの力が必要なことがわかりました。これからも、その経験と知識をホテルのために貸してください」
三戸は、意味がわからず、きょとんと虹山を見た。
「エントランス・マネージャーとして、あらためて三戸利夫さんをお迎えしたい。これからもこのBOSS HOTELの顔としてお客様をお迎えしてください」
ひときわ暖かい拍手が、三戸に送られた。
「お渡ししたい物がございます。お帰りの前に、支配人室のほうにお願いいたします」
帰り支度をしている寿久子に、虹山が声をかけた。
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