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「面白い絵が撮れていたので、お知らせしようと思いまして」
支配人室で二人だけになると、虹山は一枚の写真を示した。
監視カメラがとらえた映像のヒトコマを、プリントアウトしたものだった。
そこには、あの晩、ホテルの正面玄関で談笑する寿久子と三戸の姿が写っていた。拡大されて、画面の粒子は荒れていたが、三戸に気づかれぬよう、寿久子があの封筒を制服のポケットに滑り込ませている様子が、しっかりと捉えられていた。
「当ホテルでは、お客様のプライバシーを守るために、記録していたカメラの映像は一定期間保管したあと、すべて消去いたします。このプリントしか残しませんので、ご安心ください」
「虹山さんにも、私のお芝居はすべてお見通しだったようね」
寿久子は、イタズラがばれた子供のような表情をみせた。
「いいえ、しっかりだまされましたよ。この写真は、ついさきほど、偶然にみつけたのです。マジシャンさながらに三戸に手紙を渡していたとは考えもしませんでした。しかもわざわざダイヤを隠して騒ぎにして。どうしてこんなことを?」
「あの人は、雨の日も風の日も、一日も休まずに、玄関に立ち続けてきたでしょう。そのまま縁の下の力持ちでリタイアさせてはいけないと思ったの。花道を用意してあげなきゃって」
「それで、あの手紙を?」
「あの人なら、ぜったい、気がつくと思ったんですもの」
寿久子は、レバーを操作して特別室のテーブルを記録した映像を巻き戻した。
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