7人が本棚に入れています
本棚に追加
「許、待てよ」
俺の声は虚しく響く
許はやはり振り返ることなく、その背中だけが遠ざかっていく
「待てって言ってるだろ!」
俺は更に声を荒げた
もう周りの目だとか、気にしていられない
「いい加減こっち向けよ!!」
俺はぶら下がらんばかりの勢いで、筋肉質なその腕に掴み掛かった
「うるさい…そんな大声ださなくても聞こえている」
「聞こえているなら、こっち見ろよ」
いつもとは反対に、俺は強引に許を振り向かせた
互いの視線がかち合う
俺は真っ直ぐ、許の切れ長の双眸を見つめ返す
許は無感情に俺の動向を窺っているだけで、何を考えているのか読むことはできない
だが、そんな事で挫けるほど俺の決心は弱くない
拳を更に握り込み、緊張でからからに渇いた喉から声を絞り出した
「これ受け取って欲しいんだ!」
差し出した手に乗っていたのは、ポケットにしまっていた所為で不格好に潰れた包装のチョコレート
「……うそ。せっかく昨日頑張ってラッピングしたのに」
昨日はそれなりに見られたチョコだったのに、俺は目の前の惨状に言葉を失った
「そういうことか」
許は躰の力を抜くと、俺の手の上のクシャクシャのそれを取り上げる
最初のコメントを投稿しよう!