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『お願いしまーす!』
女の子の甲高い声が飛び交っていた。
週末の金曜日は鬼のように忙しい。
こんな田舎町のキャバクラでも、この日だけは都会のキャバクラと差ほど変わらない。
まだ入店したばかりの新人『ユウ』(19)はこの仕事は初めてだった。
高校を卒業してアルバイトを転々としていたが、どれも長続きせず将来やりたいことも明確ではなかった。
両親は離婚していて、父親と暮らしていたが高校卒業と同時に家にあまり帰らなくなり、そのまま勝手に家を出て来ていた。
ユウがこの店に入店したのは1週間前のこと―
高校の時から特定の彼氏を作らないユウは、何十人といる男友達(ナンパも含む)の一人と隣町でぶらぶら歩いていた。
ユウは誰もが振り返るようなオーラの美人系ではないけれど、細身で目が大きく、鼻筋も通っている。
芸能人でいうと夏川純といったところだ。
おまけに愛嬌もあって割と派手なユウは、男は放っておかない存在だった。
男友達が途中でばったり会った知り合いと話していたので、ユウは道のベンチに腰掛けていた。
その時だった―
「あれ!?どっかで会ったことあるんちゃう?」
茶髪で背の高い黒いスーツを着た20~25歳(見た目)の男が話しかけて来た。
それはこの土地では聞き慣れない関西弁だった。
大体この台詞は本場関西ではお決まりのナンパ台詞らしいが、そんなことを知らないユウは真面目に聞き返した。
「そうだったっけ?でもなんか見たことあるかも…」
茶髪の男はユウの顔を見て少し微笑んで、名刺の裏に自分の携帯番号を書いてユウに渡した。
「デートが終わったら連絡して」
そう言うと茶髪の男は颯爽と去って行った。
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