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プロローグ
一人の少年が大通りを外れて路地に入っていく。
幼くはないがせいぜい中学生くらいの少年だ。優しそうな顔立ちだが、瞳の奥にはひそかに陰りがある。手首にはブレスレットのように二本のチェーンが煌めいていた。複雑な模様が描かれている。
今は夜の一時。中学生が出歩くには遅すぎる時間。
少年は暗い道を進んでいく。電灯はあるものの、それでもかなり暗く、人通りも全くない。
少し歩くと一軒の寂れたコンビニが見えてきた。少年はそのコンビニの方へと向かう。
コンビニに近づくにつれ、その前に人影があるのに気付く。
(ん?なんだろう、あの子…?)
一人の少女が立っていた。少女は少年よりも二、三歳年下のようだ。
少女の周りには四人の男女が怪我をして倒れている。いかにも悪さをしていそうな体(テイ)をした男女だ。少女も怪我をしといるようなので、喧嘩でもしたのだろう。男女は少女や少年よりも少々年上に見えた。
少女の腰まで下ろした長い髪には赤く血がついていた。手には相手から奪ったのだろう、相手が握っているものと同じ型の木刀が握られている。
(へぇ、一人で相手したのかな…)
少年が足を止め、感心した風な眼差しで眺めていると、少女は少年に気付いた。その目はなにも輝りを映してはいなかった。
「何?あんた」
少女は少年を睨みつけた。
(この子は放っておいたら悪い方にも転びそうだね)
少年は直感的にそう思った。思う間もなく少女に声をかけていた。
「僕は木下蓮(キノシタレン)。僕達のグループに入らない?」
「グループ?」
「そう。君がさ迷い歩かないように。僕達が傍にいるよ」
「…………」
「君の名前は?」
「……桜木、龍乃(サクラギリュウノ)」
「おいで、龍乃」
それは三年前のある夜のこと。
桜木龍乃11歳。
龍乃はこの日、蓮と出会い、輝る道を見つけた。
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