時計

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自転車でその人の後ろを通っただけだから顔はよく見えなかったが、その人は女の人だった。 彼女は、白地に細い花びらの模様のある着物を着ていた。 そして最近では珍しい少し長めのおかっぱ髪だった。 後ろ姿からしてもそれほど歳をとっていなかったと思う。 いや、どちらかと言うとまだ若いような気がした。 本当にサッと後ろを通り過ぎただけなのに、何故か彼女の姿がとてもハッキリとしている。 黒光りのアスファルトと白い彼女の着物の組み合わせが異様に鮮明に頭に残っている。 不思議な人だった。 俺の周りの人達とは全く異なる雰囲気の人だった。 その日、家に帰ってからもずっと彼女が気になっていた。 いや、彼女自身というよりも、彼女の雰囲気が気になって仕方がなかった。
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