蝸牛の時間

5/7
前へ
/132ページ
次へ
優柔不断。 この言葉が急にのしかかってきた。 『情けない…。』と思いながら、より一層重く感じられるペダルをゆっくり漕いだ。 『いや、でも俺の姿は見られてないからもう一度通るのも可能ではないか。』 俺はそれに従う事にした。 一旦大きな道路に出て、ぐるっと回ってまた路地に入る。 当然あの人はまだそこに居た。 傘も持たず、ずぶ濡れのままだ。 「傘、使いませんか。」 俺は後ろから話しかけた。 彼女はフッと振り向いた。 「ありがとう。」 といって傘を受け取った。 彼女は、しばらく傘を見つめていたが、いじくり始めた。 ボンッ 傘がいきなり開いたのに驚いたのかびっくりした顔をした。 しばらく沈黙が漂った。 彼女は全く化粧っけのない顔をしていた。 恐らく今まで化粧はした事がないのではないか、と思うくらい自然体だった。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加