男に生まれるという事

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「ねえ、私、男に生まれたかったよ」  さっきまで失恋の話をしてた聡子がふいに打ち明ける。 「やっぱりさ、女性って受け身だし、なんだか騙されてるようじゃない?」  その場しのぎの事なかれ主義、そんな聡子ゆえの結論だったのだろうか? 「私、やっぱり結婚なんかしたくないなー。一人の男性と残りの人生を過ごすなんて絶望的じゃない?」  フリーター風情のこの女が、俺よりイイ生活をしているのがなんとなく許せないが、この意見には若干ながら賛成してしまった。 「孝史ってさ、なんでいっつも私なんかの話を真面目に聞いてくれんの?アンタも暇よねえ」  酔っぱらって管巻いてるこの女の戯れ言を、ただただ真面目に聞いている俺という人間に対して、なんて失礼な奴なのだろう。 ……と、言いたい所だけど、これがいつもの二人のやりとりなのだ。  聡子にとって、俺はとっても都合のイイ男らしい。 ――寂しい時に話を聞く男。  今年、お互いに28才にもなるっていうのに、この関係は10年以上になっている。 「いいなぁ。アンタは男だから。なんだかんだで私とは違うもんね」  そう言うと、唇を重ねあう。  俺も嫌いじゃないから、これでもかっていうくらいに舌を絡める。  一秒間に二千もの細菌が互いの口の中を交流するという話を聞いた時には、このバカの細菌が俺を汚染するかもと、少しだけ考えた事もあった。  俺たちは、ベッドで激しく抱き合う。
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