少女領域

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02・律 ココミは今日もひとり、制服に身を包み屋上に居た。 可愛らしい花柄のランチクロスを広げて、ピンクのお弁当を開ける。 色とりどりのチョコレート。 甘く幸せな時間。 チョコレートとアイスクリームに囲まれて、赤い血を流し、溶け合って死ぬことが出来たら…とココミは本気で思っていた。 「またここに居たの?」その声は高く清んでいて、けれどもどこか寂しげな声だった。 ココミは無造作に包装を破られた板チョコを口に加えたまま見上げた。 「変な顔」と言って笑う声の主に対して顔を赤くし、ココミは膨れた。 そして「デザートの最中なんだモンッ」とプイッとそっぽを向く。 「今日も人魚さんの話を聞かせてよ」 声の主は喜多見律。 ココミの学校の美術教師だ。 ココミが旧校舎の屋上に入るためには鍵が要った。 満月の夜、初めて旧校舎へ侵入する際、その鍵を探していると喜多見に見つかった。 喜多見は注意することも無く、ココミに鍵がなぜ要るのかだけを尋ねた。 「人魚姫に会うために」ココミの理由を聞くと喜多見は職員室の置くにある管理庫から鍵を持ってきた。 「旧校舎にはまだ僕の作品を置かせてもらってるんだ。無くなっても理由はつけられるから使うといいよ。ただし、スペアを作ったらこの鍵は返すこと」 それから度々、ひとりで居るココミを見かけては「人魚のお話聞かせてよ」と喜多見は話しかけ、ココミは喜多見に自分が想い馳せている人魚姫の話を夢中でした。
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