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(昭和三十年、和歌山県和歌山市西浜、伊達家)
正座する女「お姫(ひい)様、早いもので今宵で伊達にて送る夜は最後となります」
(正座する女は薄い微笑を静璃に向けるが静璃は無表情のまま鏡に映る自分を見つめている)
静璃「……お前は、恋というものを知っていますか」
正座する女「存じません。
生まれし時より伊達家に奉仕する事のみを我が身の全てと考えております故に、必要無き事は教わっておりません」
静璃「そうですか……。
聞くところによると外界では恋というものがあるから婚儀を結ぶらしいのです」
正座する女「香織様ですか。
お姫様にまたそのような嘘をお教えになられましたのは」
静璃「嘘、なのですか?」
正座する女「恋というものを存じてはおりませんが、
お殿様も奥方様との婚儀の際は婚儀の日に初めてお顔をお知りになったので御座います。
お殿様だけでなく伊達家は代々そうして御座いますよ」
静璃「私(わたくし)は外界の話をしているのです」
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