第1話 裾踏姫

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俺は特製の浴衣を身に付け、長い裾をずるずると引きずりながら、その田んぼ道を神社に向かって歩いていた。 俺は今年こそ誰かに裾を踏ませようと意気込み、その自信があった。自信の根拠は改良をほどこした浴衣だ。 今までよりも裾を1.5倍長くし、さらに針金を入れたため、昨年と比べようもないぐらい裾が広がるようになったのだ。 その裾の面積は一畳分はあり、これならば、足元への注意を怠った女の子がついうっかり踏んでしまうこともあるはずだ。そして、俺は苦もなく彼女を手に入れるというわけである。 込み上げる笑いを口から吐き出しつつ、俺は獲物の待つ縁日へと急いだ。 縁日は遥か手前の路上から始まり、神社へと続いていた。数えきれないほどの電球が辺りを昼にかえている。 この祭は有名な祭で、隣接する市町村、さらにはもっと遠くから来た観光客らで縁日は賑わっていた。 その人々の中で半数ぐらいの男達が、老人・若者・妻子連れ・彼女連れ関係なく、丈の長い浴衣を着て裾を引きずっていた。
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